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最高裁判所第一小法廷 昭和26年(れ)908号 判決 1953年5月21日

主文

原判決中被告人長井末広に関する部分を破棄する。

被告人長井末広を懲役一年六月に処する。

同被告人に対する第一審における未決勾留日数中一二〇日を右本刑に算入する。

押収中の竹槍八本(証第五号乃至第九号、第一八号及び第二〇号)手工用小刀六本(証第一、第二、第一〇、第一二ノ一、二及び第一七号)並びに庖丁六本(証第三、第四、第一三、第一六ノ一、二号)は孰れもこれを没収する。

同被告人を除くその余の被告人等の各上告を棄却する。

理由

被告人原田末利の弁護人安田幹太の上告趣意第一点について、

刑法一〇六条は、多衆聚合して暴行又は脅迫をしたときは、その行為自体に当然地方の静謐又は公共の平和を害する危険性を包蔵するものと認めたが故に騒擾の罪として処罰するものであるから、同罪の成立には、右のごとき暴行脅迫の外更らに所論のごとく、群集の暴動に発展し社会の治安を動揺せしむる危険又は、社会の治安に不安動揺を生ぜしめた事実を必要とするものではない。そして、原判決摘示事実(第一審判決引用)によれば、判示の三〇名余の者が共謀の上(刑法一〇六条にいわゆる多衆は、本来互に意思連絡のない不特定多数人であることを必要とするものでないことはいうまでもない。)、判示場所において判示殺傷行為(その動機目的が所論のごとく特定の個人の殺傷にあり、又その殺傷行為が特定の一個人に対するものであっても騒擾罪の成立に影響を及ぼすものでないことも多言を要しない。)をしたものであるから、本件被告人等の所為が騒擾罪にあたること明らかである。所論は、それ故に理由がない。

同第二点について。

本件が騒擾罪たるを妨げないことは、前点について説明したとおりである。そして、騒擾罪の首魁とは主動者となり首唱劃策し、多衆をして其の合同力により暴行又は脅迫を為すに至らしむる者を謂い、必ずしも暴行脅迫を共にし、若しくは現場に在って総括指揮することを必要とするものではない。されば、被告人原田が殺傷行為の現場において集団の総括指揮者たる行動をしなかったとしても同人が本件騒擾の首魁たることを妨ぐるものではない。そして原判決は、同被告人が兄弟分たる石井、森岡、池田等と共に尓余の被告人等に対し親分という優勢な地位を有するものであって、その配下たる地位にある尓余の被告人等多衆が集合して判示岩野、古賀その他一味の者を殺害又は傷害すべきことを判示日時、場所において協議決定し判示二十数名の配下に対し右の企図を告げ、ことに被告人原田の音頭により全員拍手し又は乾盃して大いに気勢を挙げる等共謀し、被告人原田が本件騒擾を左右すべき地位にあった者の一人であった旨を判示しているから、原判決の認定は、同被告人が本件騒擾の首魁としての判示として欠くるところないものというべく、原判決に所論の違法はない。

被告人力久富男、同今村一、同長井末広、同森岡浅治の弁護人東海林民蔵の上告趣意第一点について。

安田弁護人の上告趣意第一点について説明したとおり、刑法一〇六条の騒擾行為は、それ自体当然地方の静謐又は公共の平和を害する虞のある行為であるから、同罪にあたる事実を判示するには、多衆が聚合して暴行又は脅迫の行為をしたことを明らかにすれば足りるものであって特にその所為が地方の静謐を害し又は公共の平和を害する虞れのあることを判示する必要はない。そして原判決の摘示事実によれば被告人等多衆が聚合して殺傷行為をしたことを明らかにしているから、原判決には所論の違法はない。論旨は理由がない。

同第二点について。

原判決摘示事実(第一審判決引用)並びに法律適用によれば、原判決が所論各被告人等に対し没収を科した各押収物件は右被告人等と共犯関係にある各被告人等が判示の騒擾又は殺人未遂、傷害の用に供し又は供せんとした物であって、被告人等及び共犯者以外の者に属しないことが自ら明らかであるから、原判決が擬律をするに当り所論各被告人等の犯罪行為と押収物件との関係を判文上特に説明判示しないで右被告人等に対し没収の言渡をしても、擬律錯誤又は理由不備の違法ありとなすを得ない。論旨は理由がない。

同第三点について。

原判決摘示の被告人力久富男に対する犯罪事実は、その挙示引用に係る検事の昭和二三年二月三日付聴取書((ハ)池田方に於ける被告人等の出入について及び(ト)騒擾及び住居侵入、殺人未遂乃至傷害の事実について、並びに(ホ)池田方に於ける謀議の模様につき挙示するところの各証拠等を綜合すれば充分認定できるのであるから、論旨は理由がない。

同第四点について。

原判決挙示の証拠によれば、被告人今村一の侵入、殺意、拳銃に実弾が装填され、同被告人が判示のごとく引金を引いたが不発に終った原判示犯罪事実の認定を肯認することができる。されば、所論は、結局原審の裁量に属する証拠の取捨判断乃至事実誤認の主張に帰し刑訴応急措置法一三条により適法な上告理由とならない。

同第五点について。

第一審判決が被告人長井末広に対し懲役一年六月を言渡し第一審における未決勾留日数中一二〇日を右本刑に算入したこと、同被告人のみがこれに対し控訴したこと、しかるに原判決が同被告人に対し第一審判決と同一の懲役一年六月の刑を言渡しながら第一審における未決勾留日数を本刑に算入していないことはいずれも所論のとおりである。従って、原判決は、所論のごとく旧刑訴四〇三条に違背する違法があるものというべく、この点において、原判決中同被告人に関する部分は、破棄を免れない。(なお、昭和二六年七月二日附上申書は上告趣意書提出期間経過後のものであるから、これについては判断を与えない。)

同六点について。

原判決挙示の証拠によれば原判示事実認定を肯認することができる。されば、所論は事実誤認の主張に帰し、適法な上告理由と認め難い。

同第七点、第八点並びに同第一〇点中被告人池田実に関する部分について。

所論は、上告取下に係る被告人池田実に関するものであるから、これに対しては判断を与えない。

同第九点について。

原判決が証拠により確定した被告人森岡浅治の地位、身分並びに本件犯罪の動機、原因と、(ホ)池田方に於ける謀議の模様につき原判決が挙示するところの証拠を綜合すれば、同被告人が本件騒擾の主魁たることは充分認められるのであるから(なお、前記被告人原田末利の弁護人安田幹太の上告論旨第二点に対する判断をも参照)、原判決には所論の違法はない。

同第一〇点中被告人森岡浅治に関する部分について。

所論は、量刑不当の主張であって、刑訴応急措置法一三条により適法な上告理由とならない。

以上の理由により、被告人長井末広を除く尓余の被告人の各上告は、旧刑訴四四六条によりこれを棄却すべく、同被告人に対する原判決の部分は、旧刑訴四四七条に従いこれを破棄し、同四四八条に従い更らに判決すべきものとする。

よって、原判決の確定した被告人長井末広に対する判示事実に法律を適用すると、同被告人の判示所為中住居侵入の点は刑法一三〇条、六〇条に、殺人未遂の点は同二〇三条、一九九条、六〇条に、傷害の点は同二〇四条、六〇条に、騒擾(附和随行)の点は同一〇六条三号に該当するところ、住居侵入と殺人未遂、傷害の間には互に手段、結果の関係があり、且つ騒擾と住居侵入、殺人未遂、傷害とは一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから同五四条一項前段後段、一〇条を適用し結局最も重い古賀登に対する殺人未遂の一罪として所定刑中有期懲役刑を選択し、同四三条本文、六八条三号に従って未遂減軽をした刑期範囲内で同被告人を懲役一年六月に処し、なお同二一条により第一審における未決勾留日数中一二〇日を右本刑に算入し、主文第四項掲記の各押収物件(なお、原判決の没収した拳銃一挺(証第一四号)、実弾六発(証第一三号)は同被告人に対し第一審判決はこれを没収しなかったものであるから、当裁判所はこれを除く。)は本件犯行に供せられ被告人及びその共犯者以外の者に属しないから、同一九条一項二号二項によりこれを没収することとし、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 真野 毅 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

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